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大前綾希子

「やって後悔!!」

· Players

今回訪れたのは、MTSテニスアリーナ三鷹。

激しくボールを潰す音に次いで聞こえてくるのは、大笑いする声、そして、また激しい打球音・・

選手の練習風景を数多く見て来ましたが、ここまでワイワイと楽しそうな練習は覚えがありません。

思わず釣られてこちらからも「入っていいですか〜??」「どーぞどーぞぉ!」

その笑い声と打球音の主こそ、今回のピックアップ選手、大前綾希子選手です。

昨年の全日本選手権で単複優勝、今年はフレンチとウィンブルドンのシングルス予選、ウィンブルドンのダブルスでは本戦出場を果たした彼女から聞こえてくるのは「私はほんっとに、どんくさいんです」。

あなたがどんくさかったら、我々はいったい何だ?(笑)と思いつつ、お話をうかがいました!

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Tennis Tribe.JP(以下、TT):「今日はよろしくお願いします。それにしても、笑いの絶えない練習でしたね。いつもこんな感じですか?」

大前綾希子(以下、大前):「昨日までかなり追い込んだ練習をしてましたので、今日はちょっとリラックスした練習でした。」

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TT:「それでは、お話を聞かせていただきますね。事前に調べたつもりですが、小さいころ戦績が探せませんでした。」

大前:「はい、全国に出たのは中1でしたから、探せないでしょうね(笑)」

TT:「遡って、テニスは3歳から始めたとのことですね。」

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大前:「両親についていって、ラケットで遊んでたようです。他にも水泳、体操、サッカーもやってて、サッカーは合宿に参加するくらい、結構やってました。でもホントは運動オンチで、体操とかでも必ず笑いが起きるくらいにどんくさいんです(笑)」

TT:「でもテニスだけは、どんくさくなかった?(笑)」

大前:「そうなんですかね?!小学校の練習で最後に何がしたいって聞かれたら、必ず『スマッシュしたい』って言ってたんですけど、ラケットをブンブン思いっきり振り回すのが好きだったんです。全国大会にも行きたかたったのも、『はずむくん』タオル欲しさでしたし(笑)」

TT:「中1で全国への切符を手にしたわけですが、そこに至る話を聞かせてください。」

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大前:「小6での増田コーチ(増田健太郎氏:93年、94年全日本テニス選手権シングルス連覇、現MTS代表取締役)との出会いが、私のテニスを変えてくれました。京都で増田コーチが始めたスペインドリルで基礎からトレーニングするアカデミーの一期生として参加して、1年後に関西ジュニアで優勝できるまで鍛えてもらいました。」

TT:「たった1年で全国レベルなんて、夢のような話ですよ。どんな練習方法を取り組んでいたんですか?」

大前:「練習自体はいたってシンプルだと思います。でも練習量は半端ないです。時間じゃなくて、濃さがすごいんです。例えばコートの四隅に置いたターゲットに連続で当たるまでひたすら打ち込みを何カゴもやったり、とにかく自信がつくまで基礎をみっちりやります。」

TT:「今に続く、増田コーチとの二人三脚の始まりですね。」

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(増田コーチとの出会い)

大前:「はい。中2の時に増田コーチが関東に拠点を移されるということで、私は京都を離れてついて行くことにしました。」

TT:「中学生にして大決断だ。」

大前:「学校の先生も理解があって、中学校の席は京都に残したまま、中3の時には2週間毎に京都と三鷹を往復する生活になりました。母と一緒にウィークリーマンションで生活していました。」

TT:「中学の時点ではっきりプロを見据えていたんですね。」

大前:「結局そう言うことになりますけど、中学の頃はとにかく増田コーチについて行くってことが全てでした。」

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(全日本ジュニア)

TT:「高校時代の全日本ジュニアは高1でU16準優勝、高2でU16優勝、最後の高3でU18優勝。ほとんど総なめです。グランドスラムジュニアの出場、ITFのシニア大会にも出場してWTA700位台。」

大前:「本当に、増田コーチのお陰です。」

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(USオープンジュニア)

TT:「さて、これまでの話からもプロへの転向に特に迷いはなかったように見えますが、実は挫折を味わったとか、読者の涙を誘うようなストーリはないですか??」

大前:「いや、本当に挫折は一度もなかったです。練習はしんどいし、キツかったですけど、海外に行けるのを楽しみに頑張れました。怪我もせず伸び伸びやってました(笑)でもその分、プロになってからは色々ありました。当然、勝たなければならないプレッシャは常にありますし、さすがに同じようには楽しめなくなりました。」

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TT:「2011年のプロ転向後一気に200位台に上げて全豪予選も経験。大躍進です。」

大前:「ディフェンドするプレッシャーもなかったですし順調でした。全豪の予選はまさか入れると思っていなかったんです。その直前まで中国の大会に出ていて、スーパーバイザーに予選リストに入ったと教えてもらって慌ててメルボルンに飛びました。着いてすぐに予選の一回戦で、まったくアジャストできなくて、『何してんねやろ』って感じであっさり負けました(汗)」

TT:「ところが、その後2013年、2014年とランクを大きく落としてしまいます。怪我をしたとか?」(13年末479位、14年末674位)

大前:「いいえ、怪我じゃなかったです。それまでジュニア時代から順調にやってきた反動なのか、この頃に気持ちと体が連動しないような状況になってしまったんです。試合に出てもうまく自分のプレーを表現できなくて、色々チャレンジしていたんですけど、ストレスも溜まって、本来の自分を取り戻すのに長引いてしまいました。」

TT:「いつも陽気な大前選手からは想像できないです。」

大前:「そうですね。そんな中で、2014年の12月から増田コーチの元で北山さんにコーチしてもらうようになってから、いい方に回り始めました。」

TT:「そして、2015年の京都(全日本室内)の優勝でカムバックですね。」

大前:「はい。ところがこれからというところで、骨折しちゃったんです。」

TT:「・・・」

大前:「練習帰りにゲリラ豪雨の中、どんくさいんですけど、自転車でスリップしたんです。転ぶ先で車に轢かれるか、ガードレールになるかで、夢中でガードレールに手をついて車道にはいかないようにしたんですけど、そうしたら、右手の薬指の手の甲の骨をパキンってやっちゃいました。」

TT:「その反射神経は、どんくさくないです。。」

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(見舞ってくれた、世界の選手仲間)

大前:「8月に怪我して12月までかかったんですけど、さすがに8月9月の落ち込みは周りからも心配されるほどひどかったです。」

TT:「そりゃ仕方ないです。」

大前:「そんな中でテニスについて色々考えることもありましたけど、何より救いは気の置けない幼なじみの牟田口(恵美さん、元プロテニス選手)と伊藤(夕希さん)に慰められたことでした。」

TT:「いい友人関係は、何にも代え難いですね」

大前:「はい。やる気も戻ってきて、回復してきてからはスポンジボールで練習再開しました。」

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(気の置けない幼なじみ、牟田口さんと)

TT:「昨年の全日本選手権の単複優勝について聞かせてください。」

大前:「MTSで練習してる選手(内山靖崇選手、江口実沙選手)で私だけが全日本を取っていなかったんです、『次はアッコだぞ』ってずっと脅されてて(笑)」

TT:「シングルスの決勝は、幼なじみの今西(美晴)選手。」

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(今西選手と・・もうひとりは同じ島津製作所所属の加治選手)

大前:「はい、決勝前日は緊張するどころか、楽しみで寝られなかったくらいでした。今西は7−8歳の頃からの京都の友人で、家にも遊びに行く仲なんです。その二人で全日本の頂点の試合ができるということが、勝ち負け抜きにして本当に嬉しくて。」

TT:「試合は今西選手リードでスタートしました。」

大前:「ファースト1−4、セカンドも0−4だったんですけど、変なポジティブさがあって、『どこからそんな自信出てくるん?』って感じでプレーできてました。」

TT:「結果は6-4 6-4、互いに涙で終えました。」

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大前:「はい、でも一番辛かったのは今西だと思います。その後すぐに二人でペアを組んだダブルスの準決勝があって、気持ちを切り替えて一緒に戦ってくれました。」

TT:「準決勝の藤原・瀬間選手に勝利して、決勝は波形・宮村選手のベテランペアに6-2 7-5でした。」

大前:「シングルス以上に気合が入りました!やっぱり今西と組んで決勝にいるってことでワクワクしながらやってましたし、今西って普段そんなに声出さないのに『カモンッ!』って叫んだくらい、彼女もすごい気合で、私も引っ張られました。」

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TT:「今年、フレンチとウィンブルドンのシングルスに予選出場、ウィンブルドンはダブルスで本戦を果たしましたね。」

大前:「やっと戻ってこれたって感じでした。ウィンブルドン本戦会場のジムでは、横にナダルやフェデラーがいる事に本当に鳥肌が立ちました。小学校の文集にもしっかり『ウィンブルドン』っ書いてたし、私たちテニス選手はこの舞台に立つためにやっているんだなって、改めて認識しました。」

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TT:「話は変わって、大前選手がファンに見て欲しいのはどういうプレーですか?」

大前:「オールラウンドなプレースタイルだと思いますけど、フォアハンドの強打が武器ですので、フォアで相手をどう切り崩すかを見てほしいです。」

TT:「こういうと失礼ですが、体格で海外勢に劣ってしまいます。」

大前:「そうですね、でも今までやってきて、自分のフォアハンドは戦えるって感じています。ただやっぱりフットワーク力をもっとつけて、球ぎわであと一本、最後に一本返せる力が必要だと思います。それと、日本では1・2・3本打っていけば決められた球も、海外では1・2・3・4・5本って打っていかないとチャンスがやってこないんです。そこまでしっかり打っていけるように練習しています。」

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TT:「大前選手の試合を拝見していていつも思うのは、北山コーチとの良い連帯感です。」

大前:「はい。一人で戦い続けるのは難しいので、コーチも一緒に戦ってくれていると思ってコートに立ってます。」

TT:「それと感心するのは笑顔を絶やさないこと。コーチの方をみてガッツポーズもきめれば、笑顔も向ける。」

大前:「あ、笑っている時はだいたい、どんくさいショットの後で、『コーチ、今の見た?』って感じの時です(笑)でも、言いたいことを言い合って喧嘩もしますし、お兄ちゃんみたいな存在です。本当に一緒に頑張ろうって思わせてくれる大事なコーチです。」

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(北山コーチと)

TT:「今後のテニス人生、どういう目標でいますか?」

大前:「ひたすら練習して、勝ちにつなげていくしかないと思うんです。なので、とにかく頑張れるところまでやります。手を緩めたら落ちる世界ですから、落ち込んでも入られません。そもそも落ち込むような性格じゃないんですけどね(笑)」

TT:「ウィンブルドンの鳥肌も、ですね。」

大前:「はい、ウィンブルドンのセンターコートに、シングルスで勝ち上がって立ちたいです。ウィンブルドンに出たことで、漠然としたものからハッキリと見えました。」

TT:「ランキング的には?」

大前:「グランドスラムに挑戦し続けるためには最低でも150位以内をキープしていないとその上にチャレンジする資格がないと思ってます。早くそのレベルまでいけるように頑張ります。」

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TT:「あ、最後にひとつ。」

大前:「はい、なんでしょう?」

TT:「他に面白いネタってないですかね?」

大前:「え〜っ!私、オチ作るのヘタなんです(汗)」

TT:「あ、いや、お笑いネタって意味じゃなくて、純粋に話題として・・」

大前選手は京都の方。つまり『面白い』とか、『ネタ』に対して、義務感のように『オチ』をつくろうとしてしまうDNAがあるのでした。

そんなつもりありませんでしたので、大前さんごめんなさい、僕の方がどんくさかった(笑)

最後の最後に、一言とサインをいただきました。

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2017年9月21日更新:

大前綾希子選手が、活動拠点の変更をInstagramで報告しました。

「これから練習の拠点をスペインに置くことになりました!
もうすぐ25歳!勝負をかけよう思い…
3年間、共に戦ってくれた北山コーチと離れ新しい道でチャレンジしようと思います!
北山コーチには、言葉にできないほど感謝しています。」

応援メッセージは、大前選手のFacebookまでお願いします。

聞き手:Tennis Tribe.JP 新免泰幸

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