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西岡靖雄

「出会いときっかけ」

2019年12月6日

これまで多くの選手のお話を聞いてきましたが、彼らの中でのコーチの存在の大きさを知るにつけ、選手を支えるコーチにスコープを当てることも日本のテニスを知るために重要なことと思ってきました。

コーチインタビューの第一号は、西岡靖雄コーチ。

言わずと知れた西岡良仁選手の2つ上の兄であり、日本でまだ根付いていないプロ選手のツアーコーチプログラム、Project E.Oを現場で実践しているパイオニアです。

西岡靖雄コーチ

『良仁の兄』

元々はプレイヤーとしてITFサーキットに参戦していました。(亜細亜)大学でもプレーしていましたが、2つ下の良仁が世界的に活躍するようになり、いつしか『良仁の兄』という風に見られるようになりました。テニスの世界で生きたかったのですが、そのレッテルがいつしかテニスから離れようと大学卒業後は一般企業への就職も考えるようになりました。そんな時に高校時代の恩師である金山敦思先生に『弟から逃げているんじゃないか?』と見透かされ、『自分にしかできないことを探したらどうだ』とアドバイスをもらいました。そんな頃に良仁から、「ツアーに一緒に行かないか?」と誘われ、ツアー帯同するようになりました。

(左が靖雄、右が良仁)

『ツアーコーチという職業』

良仁と一緒にツアーを周りながら、現役選手のヒッティングやコーチングを依頼されるようになりました。一番最初にきっかけをくれたのは澤柳璃子選手でした。彼女のヒッティングパートナーとして、初めて女子選手の世界を経験させてもらいました。その後、福田詩織選手が初めての僕の専属選手となりました。現在彼女はオハイオ州立大学でプレーをしていますが、ツアーを回る時や日本に帰国する時には一緒に活動しています。選手へのコーチングを経験する中でさらに視野を広げようと考えていた時に、増田健太郎さんと内山靖崇選手の紹介でバルセロナにあるクラブチーム『CMC Competition』でツアーコーチとしての経験の場を得ることができました。そこでは幸運にもWTAトップ選手のスベトラーナ・クズネツォワ選手やマルガリータ・ガスパリアン選手とのツアー帯同の機会を、師事していたカルロス・マルティネス氏(クズネツォワのコーチ)の計らいでいただくことができ、ツアーコーチとはどういうものかを実践で学ぶことができました。

スペインで学んだツアーコーチという職業は、翻って日本ではまだ一般ではないということも分かってきました。

(スペインで、クズネツォワと)

『再び弟の影』

3年の選手のヒッティングパートナーや選手のツアーコーチング、スペインでの1年半の経験をしていながらも、継続して良仁とのツアー遠征をしていました。

その時に、内山(靖崇)さんから厳しい一言をもらったんです。「いつまで良仁と回っているんだ?『良仁の兄』だからツアーに回れているとしか見られないんじゃないか?」と。

これがProject E.Oを立ち上げた原動力です。西岡靖雄として選手とともにグランドスラムに行った時に、初めて『良仁の兄』のから脱皮できるのだと思います。

『Project E.Oスタート』

コーチとしてはまだまだ日の浅い3年という準備期間でしたが、今年(2019年)の1月にオフィシャルにProject E.Oとしてツアーコーチのプログラムを立ち上げました。これまでのツアーコーチは選手の現役引退後のセカンドキャリアとしてがほとんどで、30歳を過ぎてからになります。その意味では僕は約10年のツアーコーチとしてのアドバンテージがあることになります。30歳になる頃には他に類を見ない充実したツアーチームになっているようにしたいなと思っています。

『E.Oに込める思い』

Project E.OのEはスペイン語の「Encuentro(出会い)」で、Oは「Oportunidad(きっかけ)」になります。ツアーを回っているからこそ多くの出会いや機会に恵まれる世界です。正直いうと全ての選手が世界のトップ100になる可能性は極めて低いのが現実です。100位は果てしなく遠いです。良仁を引き合いに出せば、自分自身がどういう選手なのかを見つけ、それを磨き続ける確たる覚悟と貫ける性格が必要です。多くの選手にもそれを期待しますが、残念ながら多くが難しいかもしれません。それでもテニスのキャリアを終えた時、そしてテニスにかけた半生から、その先にある未来をより豊かなものにし、後世に繋げていける人間になってほしいなと思っています

『ツアーコーチとは』

基本はツアー遠征と帰国しての練習を実施します。選手によってはホームクラブのコーチが別にいらっしゃることもありますが、その際には意見や方針をすり合わせ、相互にフィードバックするようにしています。現在E.Oで対応する選手のほとんどは若いため、プレー以外にもプロとしてどう振る舞うといいのか、プロとしてのセルフプロデュースなどについてもアドバイスも行います。

選手とは、共に歩んでいるというスタンスが重要です。時には指導者、時には家族、時には他人であり、最終的には良き友人であるべきだと思っています。

共に歩むと言いました。そして選手によっては長い付き合いになることもあります。しかし長くやっているという「情」だけで、自分の能力がその選手に対して不足しているのに一緒にいる必要はないと思っています。だからこそ、常にコーチも進化していく必要があります。

『ツアーコーチに必要なこと』

選手が戦っている期間中、ずっとその選手と同じ熱量を持ち続けて一緒に戦う姿勢が必要です。例えば6週の遠征であれば、6週間ずっと選手と同じ熱量です。選手の成績は、コーチの成績でもあるんです。選手がダメだったらそれはコーチがダメだということです。今後僕のようなツアーコーチを専業とするコーチが増えて欲しいとは思います。でも、もし選手でだめだったからコーチでもやろうと簡単に考えるようでは困ります。選手と同じ熱量で戦い続けるために、自分自身も選手以上の経験を、学びをしていかなくてはなりません。

最後に、角度は違いますが、選手だけでなくツアーコーチにもメディアの注目や(日本の)テニス界でのリスペクトが必要だと思います。そうすることによってこの職業にも夢ができ、多くの若い力がひとつの職業として目指せるようになると思います。より良い選手を育てるためには、より良いコーチが育つことが必要不可欠だと思います。

靖雄コーチから一言をいただきましたが、雑な字に選手たちが大クレーム。

しまいには輿石選手や福田詩織選手が代筆をしようとする始末。

結局、2人の監修のもとでテイク3までとり、そこからいいものを継ぎ接ぎした一言とサインがこちらです(笑)

Project E.O選手プロフィール(左から)

輿石 亜佑美

福田 詩織

伊藤 汐里

リュー 理沙 マリー(ゲスト参加)

福徳 里彩

佐藤 光(米国滞在中)

取材協力

Grand Slam Tennis Academy

西岡靖雄コーチ

合同会社YNM/Project E.O