サイトへ戻る

荒川 夏帆 

 

私を信じて突き進む!

Tribe Story #70

· Players

全小を制覇した後は、全中、全日本ジュニアと国内ジュニア最高峰のタイトルを目指していくことがプロを目指すジュニア選手の定石と言える中、彼女はこう思ったと言います。 

「全国大会に出つづけることに対して自分の成長を感じられなくなり、選択肢が狭くなっている気がしていました。」

ご両親の言葉ではありません。13歳中学1年生です。ご両親の手を借りながらも自分の意志で作った成長のロードマップを辿り、着実に遂行していきます。結果的には中学から合計6年半に渡って海外で一人で暮らしをしながら、プロになる時を待ちました。しかも磨いたのはテニスだけではなく、3ヶ国語を操る能力もでした。2021年、米国ワシントン大学卒業後にプロ転向した荒川夏帆選手に話を聞きました。

broken image

荒川夏帆

👉プロフィール

1997年9月3日東京都生まれ

=ぽっちゃりから始めた「て」ニス=

テニストライブ(以下TT):晴菜選手から「お姉ちゃん・・・力で打ち合おうとしなかったです。腕が折れちゃいます(笑)」との証言を得ています!どんなごっつい女性が出てくるのかと思ったら・・笑 

荒川夏帆選手(以下夏帆):(大きな身振りで)こんな人ですっ!笑笑

そう、荒川夏帆選手は、先にプロとして活躍する荒川晴菜選手の2歳上の姉。晴菜選手のインタビュー(こちら👉)でもしばらくお姉さんの話が続いたのを思い出しました。

broken image

荒川夏帆と晴菜姉妹。二人ともプロテニスの道に進むなど、ミッキーとミニーは知る由もない 笑

夏帆私たち姉妹は性格的にも全然違うので面白いと思います。プレーも生活のペースも全っ然違うんです(笑)晴菜は妹キャラと言うか基本的に甘えん坊で一人では生きていけないタイプで、私の方がまぁまぁ一人で生きていけるかなって感じです(笑)

broken image

荒川姉妹。百聞は一見にしかずとはこのことです

TT:テニスは5歳から始められたとのことですね。

夏帆:はい。小さい頃はポッチャリしたので、親が3つ運動のうちどれがいいって聞いてきたんです。器械体操、水泳、それにテニス。テニスって「て」なので手でするスポーツだと思って、3つの中でテニスって一番楽そうで、気軽にできるかなくらいに思って始めました。

TT:でも「て」じゃないって分かってもよく続きましたね!

夏帆:キッズクラスでゴルフみたいにラケットでボールを転がすところから始まって、小1・小2くらいからはのめり込んで選手クラスに行ってました。

TT:他の2つの運動はどうなりました?

夏帆:器械体操は一度だけやってみたけど全然合わなくてダメで、水泳は10年くらいやってましたけど、テニスみたいにはのめり込まなくて。

TT楽(らく)なテニスが、楽(たの)しいに変わったんですね。

夏帆:私は左利きなので、他の子にアドバンテージがあって、それで楽しいって思ったのかもしれませんね。それに小学生の時に身体が大きくなって、お父さんに似て筋肉もつきやすい方だったので、他の子より強いボールが打てるようになってて、自分からバンバン打てるので気持ちよかったんじゃないかなって。

TT:ここで晴菜選手のいう「腕が折れちゃう」って話に繋がるわけだ!

夏帆:強いボールも打ちましたけど、相手をいかにコートの外に出してコートからいなくなさせる(つまりオープンスペースを作るってことですね)のが楽しかったんです。うふふふ^_^

TT:姉妹だね〜(笑)

broken image

京王オープンジュニア10歳以下での一枚

夏帆:プロになる人はだいたい負けたくないって言うのが普通だと思うんですけど、私は逆でした。勝負が好きというより、いかに自分を高めるかが好きでした。周りも年上が多かったので、あのお姉さんみたいなことがしてみたい、みたいな。

TTテニス道を極める、みたいな人ですね(汗)

夏帆:もし負けたくないっていう感じだったら今頃テニスは続けてないかもしれませんね。晴菜は逆だと思います。私とは違って食べてもあまり筋肉がつかないタイプないので、その中で工夫して小技をいっぱい入れて相手が嫌になるプレーをします。私が嫌だっ〜!ていう顔をするのを見たかったんじゃないかなって(笑)

=全国制覇から感じた将来への不安=

TT:6歳の時に、8歳以下のキッズカップテニスで優勝。5歳で始めて6歳で優勝。これすごいですよ!

夏帆:幸運なことに運動神経はいい方なようで、一度やると身体が覚える吸収力が自分の武器だとおもいます。

その頃のキッズカップは景気が良かったんでしょうね、副賞でウィンブルドンに連れて行ってもらえるという大会でした。ウィンブルドンに父と一緒に行きました。ジュニア時代の錦織選手やシャラポワ選手がいて、これからブームが起きそうな予感の時でした。シャラポワはその頃にはもう大きくて身体が出来上がっていて、パーソナリティまでは知らないですがテニス選手としては攻撃的なプレースタイルが魅力的で、みんながテニスをしてみたいって思わせる数少ないカリスマ性のある選手だと思って憧れでした。小さいながら、そこに戻って来たいという夢が形作られた時だったと思います。

あ、そうそう、錦織選手はドナルド・ヤングに06 06で負けた試合だったので、サインをもらうにもらいに行けない感じでした。結局ボールにサインしてもらったんですけど、引っ越しでどっかいっちゃったみたいで、あー今持ってたらって思ったりします(涙)

broken image

キッズカップに6歳で優勝。副賞のウィンブルドン観戦経験が未来像を形作った。

TT:全小に小4で出場。翌年には全国選抜ジュニアに準優勝、ただしその年は全小も全日本ジュニアも第2シードで出場ながら2回戦で敗退でした。

夏帆:そうでしたね。春の全国選抜のあと、夏の関東ジュニアの決勝で熱中症になってお腹も釣っちゃって、1週間くらい休んでたんです。夏のジュニアって忙しくて、関東、全小、全日本って続くんですが、休み明けで頑張ったけど負けちゃいましたね。お父さんからは馬力がなかったって言われました。

TT:翌年、2009年には全小で優勝です。

夏帆:全小はプレイヤーズパーティがあって、ご飯が美味しいんです!ローストビーフもあって!!きっと美味しいご飯が食べたくて、それがモチベーションで3年連続で出られたんだと思います(笑)

TT:続けてみていきましょう。中1で全中に出場しますが2回戦止まり。全日本ジュニアは大会からウィズドロー。もしかして、美味しいご飯が食べられなくなったから?

夏帆:そうだったかもしれません(笑)その頃から全国に出つづけることに対して自分の成長を感じられなくなっていて、選択肢が狭くなっている気がしていました。全国大会に出ないとテニスをやってる意味はないみたいな感じがあって、今年も来年も出て、同じ様な中で繰り返す状況に、自分がちょっと苦しくなって来てたんです。

その頃は成長期だったからか捻挫も多くて、お父さんから足に優しいクレーがあって、視野を広げる意味からも、ヨーロッパに行ったらどうかと話をもらって、雑誌で見つけてきたベルギーのジュスティーヌ・エナンのアカデミーに留学することにしました。渡ったのは中1の誕生日の前からで、中3まで全部ヨーロッパに行ってました。

broken image

全小を制するも、「全国」を追いかけ続けることに苦しさを感じていた。

=全身で感じ、消化しようとした海外と日本の違い=

TT:ベルギーの後にフランスにも渡っているようです。

夏帆:はい、ベルギーは約1年半過ごした後、フランスに1年ほどいました。ベルギーはグループにコーチがつくのですが、ITFジュニアを回るに当たってマンツーマンがレベルアップにいいんじゃないかということでマンツーマンをやっているところを探して、それがフランスでした。

broken image

中1で渡ったベルギーでは、真冬にお湯が出なくなることも。多少のことには動じなくなった。

TT:夏帆選手はその後米国の大学にも渡ったわけですが、日本と海外の違いについて感じたことを教えてもらえますか?

夏帆:そうですね、日本はコーチが先に察して手を差し伸べてくれるますが、ヨーロッパでは表情から分かってくれるとかはなくて、自分からしっかりリクエストしないといけません。主張しないと生きていけない世界だなと思います。

特にヨーロッパでは先に自分はこういう人ですよって意思表示しないとwelcomeしてくれませんね。会話の中で要点にすぐに行ってしまう。それと感情も先に出ます。日本はあれがこうでこうなってと周りの状況説明からはいって、少しずつ核心に入っていきますよね。それが海外ではその核心に最初から入っていく気がします。

broken image

自分の意思は伝える。これが夏帆選手が海外で学んだことの一つ。

練習中もコーチに対して柔らかくもしっかりとリクエストをしている様子が伺えた。

TT:馴染めました?

夏帆:13歳で行ったので、まだ頭も柔らかくてある程度溶け込むことはできました。これが18歳からとかだと色々余計なことを考えすぎちゃうだろうから難しかったかもしれませんね。ベルギーの時などは2月の真冬にお湯が出なくなっちゃうこととか、日本ではあり得ないこともあっても気にならなくなりました。一回決めたらやり通さないと気が済まない性格なので、ヨーロッパで2年半やり切って、この後どんな事があっても大丈夫だって思える経験になりました。かなり揉まれましたが、それでもまだまだ主張しきれてないなと感じてもいました。

TT海外に行ってテニスの面での収穫はどうでしょう?

夏帆:海外では色んなプレーがあることも学んだし、色んな性格の子、いい子もいれば意地悪な子、偉そうな子もいたりしましたけど、驚かなくなりました。ドイツではミスしてフェンスをよじ登っちゃう子がいたりで、何でもありなんだなって思いました(笑)それと海外の選手と練習する時に低姿勢で「お願いします」みたいになってしまうのが日本的には普通ですけど、相手も同じ選手なので対等に接していける感覚をもっているのは、経験から得たものだなって思います。

 

テニスとは関係ないですけど、海外に行ったことで、反抗期もなく逆に帰って来た時に親への感謝を強く感じましたし、今でも両親が大好きって言えちゃいます!

=自信をもってハイできますとは言えなかった=

broken image

東レPPO決勝のコイントス。

6歳で憧れたシャラポワと一緒にいられる高揚とヤンコビッチの気迫に、緊張しすぎて顔が強張っちゃってます^_^ 

broken image

東レPPOでは杉山愛さんの引退セレモニーにもジュニアを代表して歩かせていただく。小6の時。

TT:高校は日体大柏に進学。海外の大会を回り、2014年からはITF大会にも出始めて、17歳では全豪ジュニア、ジュニア最後の年にはウィンブルドンジュニアにも出場しています。

夏帆17歳、18歳の2年間はちょっと苦しい年でした。プロになることを頭に置いていた時期で、このまま進んでもテニスを楽しく、強くもなれるのかなと思うこともあったり、世界のジュニアのトップ10選手とやった時にも自分には何かが足りないと思い始めてもいて。自分のテニスとメンタルの状態で明日からプロになったという時に、最初から結果が出せるかを自問した時に「ハイできます!」とは自信をもって言えないと感じていました。

broken image

全豪ジュニアに出場。高校時代を通じてジュニアと一般の国際大会を転戦した。

TT:それは米国の大学もすでに視野に入れての迷いでしたか?

夏帆:いいえ、その時点ではアメリカの大学のことは全く考えてはいませんでした。Facebookには色んな大学からのメッセージが入っていたけど読んでもいないし、返事もしていませんでした。ある日お父さんにそのことを話したら、フルスカラーシップ(全額免除の奨学金制度)でアメリカの大学でプレーする選択肢もあるようなので、考えてごらんとだけ言われました。テニスの面でもそうですけど、語学でも自分の英語はもっと磨きたいと思っていましたし、色々なことを考えて、4年で大学をやり抜いてプロに行こうと自分自身で決めました。

broken image

米国の大学ではStudent Athleteとして常に勉学でも優秀な成績が求められる。

夏帆選手はフルスカラシップを得て渡米した。

TT:アメリカの大学にいく選手は、しばらく前から斡旋会社などと動き始めるものですよね。

夏帆:普通は秋には動いているのに、私はプロに行くか大学に行くかで考えをまとめるのに時間がかかってしまったので、大学は1月から探し始めました。でも留学斡旋は使わず、全部自分とお父さんとでやりました。その時点ではもう大学の選択肢は少なくて、2校のコーチが日本に来てくれて、その1校のアーカンソー大学に決めました。SAT(大学能力評価試験)を受けたのは5月。もうギリギリでした。

broken image

TT:アーカンソー大学で2年間大車輪で活躍の後に、ワシントン大学に転校されてます。

夏帆:ワシントン大学は、勉強的にも学生のインターナショナルな度合いでもアーカンソー大よりレベルが上で、もっと上の世界を見せてくれるんじゃないかと考えて転校しました。アーカンソーには私のような外国人の学生もいましたし、素晴らしい友人もできましたが、大学自体は地元の学生のためという感じもあって、学生も卒業したら地元で就職していくローカル色が強かったんです。保守的というか。

テニスでもアーカンソーはチームで勝つというより選手個人がそれぞれ勝てばよしという雰囲気でした。一方でワシントン大学は "One for all, all for one" というのがあって、自分にはそっちの方が合ってるなという感じがしました。

TT:ワシントン大学のあるシアトルはマイクロソフトやアマゾン、ボーイングもあったりで国際色も豊かなエリア。アーカンソーとは全く違う国のようじゃなかったですか?

夏帆:本当にそうですね。シアトルはオープンで、色んな考え方があるよねって言うところから話ができる。色んな人種がいて、インターナショナルで、リベラルな街でした。アーカンソーはアメリカ・アメリカなところだったので、全く違うアメリカを見れたのもよかったなと思います。

broken image

ワシントン大学でも中心選手として活躍する一方で、フランス語を専攻しトリリンガル(3ヶ国語話者)に磨きをかけた。

TT:さて時間を回して、ワシントン大学に転校して2年。もう一度進路を考える時が来ました。その時にはプロになることへの改めての迷いはありませんでしたか?

夏帆:いえ、迷いはありませんでした。大学に来てもっとテニスが好きになったし、ジュニアの時は完璧主義みたいなのがあって一つにミスをしばらく引きずってしまってたりしたのが、大学ではみんなのためにプレーしたり、応援してくれてすごい力になったりで、テニスって個人スポーツなんだけど実は一人じゃないんじゃない?みたいなふうに思えるようになりました。

私のプレーを見て元気いっぱいになってくれる人もいるし、自分も元気になれる。そんなスタイルだったら出来るんじゃないかと考え始めてました。

大学2年はアメリカの環境になれることに精一杯でしたが、3年からはプロに行く準備として自分自身のトレーニングやメンタルトレーニングも入れたりして、少しずつプロへのビジョンが形作られていきました。

=老若男女に好かれるテニス選手=

TT:2021年からプロとして活動を開始しましたが、早々にモナスティル(チュニジア)に随分長いこと行ってましたね。同じ大会に何週出てました?

夏帆10週間モナスティルで揉まれてました(笑)でも、これからやっていく相手のレベルを知る事が出来ましたし、選手たちもたくさん知り合えたので、今後は練習相手にも困らないだろうなって思います。

TT:シングルスは最高で本戦2回戦、ダブルスは2度優勝の結果でした。

broken image

ダブルス2勝中の1つは、同じく米国の大学でStudent Athleteとして活躍後、ほぼ同時期にプロに転校したリュー理沙マリー選手とのペアリングで勝利。

夏帆茨の道とは覚悟をしてましたのでその通りでした。ここからは全てが自分にかかってるし、もっと努力をしないと絶対に上がっていけない。自分に言い訳をしない、後悔しない道にしていきたいです。環境とか他のせいにせずに、全部自分次第、今ある環境でどこまで行けるのか、やっていきたいです。

TT:どんな選手になっていきたいですか?

broken image

タイのカムカム選手と。夏帆選手が憧れる選手の一人。

夏帆:ランキングが上がっても自分は変わらず、必ず相手と同じ目線で話せる、話しやすい選手でありたいです。タイのカムカム選手なんかはすごい選手なのに全く普通に話してくれます。変わらない、おごらないのって大切ですよね。ああいう選手になりたいです。老若男女に好かれて、人間味のある選手でありたい。テニス以外にもそば100杯食べれますとか、何か特技があるみたいな。

TT:へ?100杯食べれちゃうの?

夏帆:あはは、例えです(笑)私の特技は赤ちゃんや動物に好かれる事ですかね(笑)顔丸いじゃないですか(顔を手で丸く覆って)。あんぱんまんみたいに丸い顔って赤ちゃんとかに好かれるんですよ。私も動物は好きで、猫とか犬とかもそれを分かってくれるみたいで、よくうちの猫と会話してます。他に特技と言えば、集中すると本3冊は1日で読めちゃいます。

TT:SNSでも試合の合間の読書の事を書いてましたね。

夏帆:はい、本は大好きです。愛読書は長谷部誠選手の「心を整える」。

(心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣 幻冬舎 2011/3/17)

試合前には必ず読んでます。あとは偉人系で、渋沢栄一、野口英世、ジョン万次郎とかの本も読みました。小説も読みますし、それにニーチェ。ニーチェの考え方とか好きです。

TTニーチェが出てくるテニス選手は初めてお会いしました^_^

話がどんどん広がっていくのでこりゃまとめるのが大変だ!!

broken image

遠征中に読書でリフレッシュ。1日に3冊読破する本の虫。

TT:最後になります。選手として到達したいゴールは?

夏帆:本当になりたいのは、世界のトップ10です。でもその前に、まずトップ500を目指します。

大学ではパワーがあって、走り負けない、プレッシャーの掛かるところで勝てるのが強い選手だったのが、プロはそれは当たり前です。その上で色々なタイプの選手に対して今の状態なども頭に入れて最終的な勝ちというゴールに向けての道筋を見つけていく観察力と考える力が必要だなと思います。そのためにこれから培っていこうと思うのは、相手の弱点と自分の強みをマッチさせられる観察力を持って、試合を第三者目線でチェスをする様に相手と駆け引きする力です。目の前の1ポイントをどうやったらその先のゲームに繋げられるか、流れを考えて試合運びをできるようにしたいです。

 

あとは揺るがない自信。これだけ練習して来たからとかからくる自信は最後には大切だなと思います。

broken image
broken image

荒川夏帆選手の3ヶ国語での自己紹介です。ご覧ください。

=荒川夏帆選手の情報=

Facebook

Twitter

Instagram 

 

=写真提供=

荒川夏帆選手

 

=聞き手=

TennisTribe.JP 新免泰幸