すべてのプロ選手がジュニア時代に順風満帆な戦績を収めてプロ転向を迷いなく決意しているわけではありません。それは、たとえ中学時代にワールドジュニアに選抜され、全日本ジュニア準優勝、全日本選抜優勝の輝かしい戦績をもってしても。
今回は2017年の春にプロ転向した18歳、住澤大輔選手を取り上げます。
Tennis Tribe.JP(以下TT):「今日は宜しくお願いします。テニスは5歳から始められたのですね。」
住澤大輔選手(以下、住澤):「こんにちわっ!よろしくおねがいします。」
(お、元気がいい!)
住澤:「はい、両親も大学でテニスをしていて、姉さんも兄さんもみんなやっていたので、テニス以外のスポーツをやることがなかったんです。」
TT:「住澤選手の年代だとサッカーが人気だけれども、そっちに興味は湧かなかったんですか?」
住澤:「まったく興味なかったです。そうだ、水泳だけはやりました。小学校の高学年の時でしたけど、学校で他の競技は色々やるじゃないですか。水泳はその時に25メートルも泳げなくてやばいって思ったんです(笑)それでスクールに通ってクロールと平泳ぎとか一通りマスターできたので半年でやめました(笑)」
TT:「どの辺りから本格的にテニスに打ち込むようになったんですか?」
住澤:「小学校の4年でYSC(横浜スポーツマンクラブ)からJAM(現Val)移った時からです。その頃からプロになるのを夢に持ち始めました。」
TT:「小さい頃から意識をしっかり持っていたんですね。」
住澤:「高校は日出高校という通信に行ったのもそのためでした。」
TT:「普通科の高校と両立している選手もいますが。」
住澤:「ちょっと悩みましたけど、普通科の学校に行ったら昼間に練習時間が取れないですから、出遅れてしまうって思って通信に決めました。」
TT:「ジュニア時代の戦績をお伺いします。全日本ジュニアU12準優勝、全国選抜U12で優勝、RSK全国選抜U13準優勝のあと、2016年U18のシングルスベスト16、ダブルス優勝が次の主だった戦績になります。このU13からU18までの空白の期間について、差し支えなければ何があったか教えてください。」
住澤 :「はい、問題ないです。その頃はU13のITFワールドジュニアの日本チームメンバーにも選抜されて、とても充実していました。でもそれが、逆にプレッシャーになって勝てなくなってしまいました。」
TT:「『勝って当たり前』と周りが思っていると感じたんですね。」
住澤:「そうですね。その時は、試合に出ることすら怖くなってしまいました。」
TT:「全日本ジュニアには1回戦のドローにも出てこなくなりました。」
住澤:「(全日本への出場枠を争う)関東ジュニアで3年連続(2013、14、15年)マッチポイントとってから逆転で負けました。白子は今でもちょっと嫌な思い出のコートになってます。」
TT:「それは辛い思い出だ。それで、去年のU18で戻ってこられた時のことを教えてください。」
住澤:「ジュニア最後の年なのでとにかく結果を残そうと、1週間前から白子で合宿して、3日前から会場入りをして準備をして試合に臨みました。結果的にベスト8で全日本に行くことができました。」
TT:「他に、ジュニア時代に何か記憶に残る、いい方の思い出ってありますか?」
住澤:「全豪ジュニアの予選決勝です。僕はジュニアランキング100台、相手は90位台のロシアの選手でした。この時はメンタルトレーニングを受けていて、決勝で硬くなると分かっていたので、トレーナーとその時にどうするかというのを十分話し合って、準備して試合に行ったんです。」
TT:「関東ジュニアに続き、ここでも十分な準備をしたわけだ。メンタルトレーニングのお話は、あとでじっくり伺いましょう。」
住澤:「『目の前の一本』とか『勝つまで分からないぞ』ってずっと声を出しながら試合してました。勝って握手をしたところから号泣しちゃって、1時間くらいずっと涙が止まらなかったこと以外覚えてないんです。1年分の涙を流した感じでした。」
TT:「聞いてるこっちが泣けてくるね(半泣)」
住澤:「でも、ずっと泣いてるヤツがいるって変に思われていたかもしれないですけど(笑)」
TT:「さっき話の出たメンタルトレーニングについて聞かせてください。」
住澤:「2015年の夏前くらいだと思いますけど、親の勧めもあって、自分も必要だと思ったので、取り入れてみようと思いました。」
TT:「関連の本を読んだりとか?」
住澤:「本読むの苦手なんですよ(汗)トレーナーの方に教えてもらった事をノートに取ってやってました。試合前の準備から、試合中のことまで教えてもらって、試合中にもノートを見ながらやってました。」
TT:「岩渕さん(現デビスカップ監督)もメンタルの本を出してますね。分かり易かったですよ。」
住澤:「本は読んでないんですけど(笑)教えていただいトレーナーは岩渕さんのトレーニングをやった方だったと思います。」
TT:「メンタルトレーニングは日本ではまだまだ普及していませんから、住澤選手のように取り入れていく人がもっと増えていくといいと思いますね。」
住澤:「簡単ではないんですが、ちょっとの思考を変えるだけで大きく変わったと思いますので、オススメです。」
TT:「さて、プロ転向への軌跡をお伺いしましょう。ここまでのお話から、挫折もあったわけですね。」
住澤:「そうですね。去年までは全日本にも出られなかったので、プロを考える以前でした。」
TT:「ほとんど諦めかけていたわけですか。」
住澤:「諦めているというか、そんなことを口にすることすらできなかったです。」
TT:「でもそこからよく気持ちを戻してきましたね。」
住澤:「そんな状況だったので、メンタルトレーニングをやってみようと思いました。成果はすぐに出てきて、全豪ジュニアの出場と全日本ジュニアでプロへの望みが繋がりました。それに、全豪のコート立った時、プロになってもう一度ここに立ちたいっていう思いが本当に強くなって転向を決意しました。」
TT:「転向の最初の年から橋本総業チームに加えてもらうなんて、いいスタートを切りましたね。」
住澤:「はい、本当にそう思います。それに、実業団の団体戦にも出て、チームが1:1の勝敗が決まるダブルスの試合に松尾(友貴)さんと出たんです。スーパータイブレークで勝ったんですが、それまでテニスをチームでやったことがなかったので、本当に嬉しくてチームに入れて良かったって思いました。」
TT:「同年代には他にも今年プロになった選手がいますが、ライバルみたいな意識を持ってる選手っていますか?」
住澤:「野口(莉央)ですね。福岡出身で湘南の高校からこっちに出てきたんですけど、拠点も近いのでよくダブルスも組んで遠征にも一緒に行ったりしています。」
TT:「ライバルっていうより、一緒にやってる仲間という感じですかね。」
住澤:「そうですね。でも野口はATPのポイントも取って先に行っているので、自分も負けずに頑張りたいです!」
TT:「プレーについてご自身のスタイルをどう表現されましか?」
住澤:「攻撃的にプレーするスタイルです。ネットの少し高いところをしっかりスピンをかけて通して、ベースラインから1−2メートル下がって打つことが多いんですが、これをもう少し中に入って攻撃力を上げられるようにトライしてます。」
TT:「今の多くの選手が目指すプレーですね。」
住澤:「フォアをもう少しフラットで叩いて押していけるスタイルも取り入れたいとも思ってます。」
TT:「参考にしている選手はいますか?」
住澤:「フェデラーの中に入ってプレーする展開や、錦織選手はドロップのタイミングの取り方や、リターンでの位置どりなどは勉強になりますので、よく見ます。」
TT:「錦織選手のプレーは参考になるものが多そうですね。」
住澤:「僕は176センチでやっぱり世界の中では身長がないので、頭を使ってプレーできるようにも目指したいです。」
TT:「では最後に、テニス選手としての目標はどう据えていますか?」
住澤:「グランドスラムで優勝をしたいですし、ランキングではトップ5、トップ3に入る選手に なりたいです。」
TT:「現在18歳で、まだ先の長い選手人生になりますが、まず最初の1年目のゴールはどのあたりになりますか?」
住澤:「今まだポイントを取れていないので、まずポイントを取って1000位以内に入るところですね。」
TT:「2020年の東京オリンピックはどう考えていますか?」
住澤:「日本代表で戦いたいです。そのためにはあと3年で50−60位に入れるよう頑張ります!」
TT:「あ、一つ忘れてました」
住澤:「はい。」
TT:「修造チャレンジにも参加したんですよね?」
住澤:「はい、球拾いから(笑)」
TT:「へ?、失礼、は??」
住澤:「まだ選ばれてない時に見学しに行ったら、ボール拾いで中に入れてもらえて、それをきっかけに次の年に参加させてもらえました!」
TT:「はぁ〜そんな選ばれ方もあるんだ・・」
最後に住澤選手に一言とサインを書いていただきました。
実はこのサインの前に漢字で名前を書いたので「これでいくの?」と聞くと、照れながら「まだサインは書いたことがないけど、何となくこんなので行こうって思ってます」ということで、プロ初サインとなりました。「やばい、Uがでかくなっちゃった!」というのは、ご愛嬌で!
そう、チャレンジあるのみ!応援してます。頑張ってください!!