整備されたコートの観客席に足を踏み入れると、周りから「こんちわ〜っ!」「っちわーっ」と方々から若い声。
東伏見の早稲田大学庭球部コートでお会いしたのは、2016年インカレ単複優勝、2017年プロ転向し、年始の943位から400位台に一気にランクをアップさせて勢いに乗る、林恵里奈選手です。
Tennis Tribe.JP(以下、TT):「初めまして!よろしくお願いします。」
林恵里奈選手(以下、林):「こちらこそ、宜しくお願いします!」(ちわ〜っ)「お疲れっ!」
TT:「みなさん元気がいいですね!部活って感じですね。」
林:「すみません(笑)」
TT:「福井県出身で初のプロテニス選手とのことですね。」
林:「はい。でも学生時代からこの辺りのアパート暮らしで、今でもそうなんです。」
テニスとの出会い
TT:「今日は色々お話しを聞かせてくださいね。まずは、初めてラケットを握ったきっかけを教えてください。」
林:「両親がテニスをやってまして、プレーしている端でラケットを引きずっていたの3歳でした。父は自営でテニスレッスンをやっていて、週に2−3日のレッスンに参加するようになったのが5−6歳の頃です。レッスンがない日には、マンツーマンでテニスを教わりました。」
TT:「お父さんがコーチだったんですね。小さい頃、テニスは楽しかったですか?」
林:「父の私に対する口調が、他の生徒とは違ってキツかったのを覚えています。今となっては良かったんですけど、その頃はちょっと辛いと思うこともありました。」
TT:「テニスを嫌になることはなかったですか?」
林:「そうですね・・でも休みの日にもテニスのビデオを観たり本を読んだりしていたので、結局、好きだったんだと思います。」
遠かった全国レベルでの勝利
TT:「お調べしたつもりですが、小中学校時代の戦績が出てきませんでした。」
林:「はい、そうだと思います。初めて全国に行けたのは小5で、それまで北信越でもせいぜい3位止まりでしした。全国でも1〜2回戦レベルでしたので。」
TT:「今からは想像できないですね。その頃に思い出に残っていることはなんですか?」
林:「小6の時にフロリダに一ヶ月の遠征に行かせてもらったんです。初めての海外で初めて外国人選手と試合でした。日本では大柄な方なのに、海外に行くととんでもない体格の人たちがゴロゴロいてショックを受けました(笑)日本の試合でネットに出ると相手に圧力をかけられたのに、向こうでは通用しなかったんです。どうやったら勝てるのかを考えて、一度コンソレ(早期敗退者でのトーナメント)でひたすらネットに詰めていたら、優勝したことがあります(笑)」
TT:「ひたすらネットですか(笑)他にはどうですか?」
林:「中3で最後の全日本ジュニアの地区予選の直前に、膝を骨折しちゃったんです。」
TT:「あいたたたっ!」
林:「全日本ジュニア予選は欠場したんですけど、猛烈に治したんです。授業中でもずっと治療器具を当てて、コートに立つのには2ヶ月かかると言われてたのを1ヶ月で治して全中に出場できました。単複一回戦負けでしたけど(汗)」
火事場のばか力?とプロ意識の芽生え
TT:「さて、高校と大学では結果が出てきましたが、どちらも最終学年の時なんです。高3で全国選抜個人単優勝、インターハイの単複優勝、国体も優勝。」
林:「本当ですよね。最後の年だから・・かな。土壇場の集中力があるのかもしれません。」
TT:「大学でも1年から3年までダブルス以外では特に目立った成績がないのに、4年でインカレ単複優勝。」
(写真は大学2年でのインカレダブルス優勝時)
林:「何ででしょうね(笑)でも、大学4年の時にはプロを考えていたので、そのためにもインカレのタイトルが欲しくてモチベーションがめちゃめちゃ高かったんだと思います。」
TT:「そのプロへの意識について伺っていきます。まず、高校卒業の段階でプロを目指すことは考えませんでしたか?」
林:「プロは本当に漠然と考える程度でした。その頃は教員になりたいと思っていたんです。なので、筑波大学も候補だったんです。」
TT:「結果的には早稲田。」
林:「はい。インターハイの優勝で自信が出てきた頃に、早稲田の土橋監督からお誘いを頂いたんです。」
TT:「教員の夢は途切れたわけですか?」
林:「いいえ、2年までは教員課程を取っていました。でもテニスとの両立ができなくなって、2年の中頃にはテニスに絞るようになりました。」
(早稲田の仲間たちと)
TT:「では、プロテニス選手への目覚めはこの頃?」
林:「そうでもなかったんです。3年の時に大学の先輩の青山(修子)さんに甲府国際のダブルスに一緒に出ないかって言われて・・」
TT:「いい経験ですね。」
林:「はい。そのダブルスで優勝したことがプロを目指す自覚が生まれた頃だと思います。それと早稲田は元々JOPに出場する空気感があったんですが、3年の頃に土橋監督がITFを勧めるようになったんです。それもプロへの意識が生まれた理由だと思います。」
プレースタイル
TT:「さて、林選手のプレースタイルについてお伺いします。実は久留米国際で、ローラ・ロブソンとの準決勝を拝見しました。」
林:「あ、あのボゴボゴに打たれた試合(笑)」
TT:「それでも苦しい時に無理をせずに拾って、チャンスをミスなく仕留めていたので、しっかり自分をコントロールする選手だなと思いました。でも先ほどの話では、ネットプレーに出るのがスタイルなんですね?」
林:「はい、少しでもチャンスと思えば前に出ちゃう方です。中学の頃はすごい単発で、『それで出るんか?』って球でも前にでていましたが、高校では絶対に諦めない指導で粘りを覚えるようになりました。大学では自分の形で試合を進められるようになったんですが、プロでは自分のペースでは戦わせてくれませんね。ロブソン戦もそういう状況だったとおもいます。」
TT:「そこが課題ということになりますね。」
林:「はい、上のレベルの選手はチャンスボールをくれません。先にチャンスを掴んで攻めてきます。わたしも少しのチャンスも逃さずに、相手より先に攻めに転じられるようなプレーを身に付けたいって思ってます。」
勝ち癖
TT:「試合を少し振り返ります。昨年はITF3大会目の西多摩(亜細亜大)で並み居る強豪を倒してベスト4。美濃越選手にフルセットで敗退でした。」
林:「はい、その大会は覚えています。プレッシャーもなくて自分のプレーができる感覚がありました。準決勝も主導権は握れていて、決定的なポイントでネットでミスしてから逆転された試合だったので、覚えています。」
TT:「その後は高雄で決勝進出。今年前半は予選敗退が続いたと思ったら5月の久留米でベスト4、6月甲府でベスト8と成績を出してきました。」
林:「そうですね、失うものは何もないという感じで、勝ち癖のような、いい感覚を得ていました。」
TT:「さてそう聞くと出場試合で気になることがあります。8月はこの勢いでITFでポイントを取りに行くと思ったら、ユニバーシアードや国体へ出場されました。」
林:「国体は所属先での参加になります。ユニバーシアードは世界の大学のトップレベルが集まる大会で、これまでダブルスで銅メダル止まりだったんです。卒業後2年までの参加資格ですので、WTAランクには関係ないんですが自分のために欲しいタイトルと思って出場しました。」
(結果、ダブルス銅メダル、ミックスダブルス金メダル、団体銅メダル)
プロテニスプレイヤーとして
TT:「大卒のプロテニスプレイヤーは少数派ですが、この点について何か思うところはありますか?」
林:「同年代でいうと高校時代からプロの試合に出て、卒業後プロに転向した加藤さんや尾崎さんがいます。そういう選手だけではないって思いはあるので、成績を出せるように頑張っていきたいです。」
TT:「同じ年代で誰かライバル視している選手っていますか?」
林:「加治です。加治は京都で、私は隣の福井で、小さい頃から全国に行くと彼女がいました。勝って、負けて、彼女がいるから自分もいるという感じで、大学でも大きな存在であり続けました。」
TT:「『加治』って呼ぶところからも、いい友人でもあるんですね。加治選手へのインタビューでも何度も林選手の話題が出ましたよ。」
林:「はい、そうです!」
見据える先は?
TT:「では最後になりますが、プロテニス選手としてゴールはどう考えていますか?まずは今年の目標?」
林:「ぶっちゃけ、今年の初めはシングルスで500位台にいければいいかなって思っていました。」
TT:「それは達成しましたね。」
林:「なので、300位台に乗せてみたいです。」
TT:「グランドスラムへの出場の目標はどうですか?」
林:「シングルスは簡単ではないと思っているので、まずはダブルスで行ってみたいです。最短では来年の全豪ですが、ただまだダブルスランキングが足りないです。」
TT:「シングルスではどうですか?」
林:「今年から本格的に試合に出ているので、今はポイントが積み上がっていきますけれど、来年はもっと上の大会でポイントを積んでいかなければならないので、今年にように簡単にランクを上げることはできないと思っています。その中でも来年の全米予選のライン(250位程度)は目指したいと思います。」
TT:「キャリアでの目標は?」
林:「グランドスラムの出場もそうですが、トップ50位に入れるといいなと思っています。」
TT:「あ、最後に一つ忘れていました。細いですよね。」
林:「結構食べるんですけど、太らないんです。」
TT:「僕と同じ身長なのに、体重は・・少しお分けしましょうか?」
林:「・・・」(聞こえていたはず)
最後に一言とサインをいただきました。
「プロ1年目、今に満足せず常にステップアップをしようという思いです。ITFの出場からWTAに出場できるようにもステップアップしたいですし。」
写真提供:
山下潤(Jun YAMASHITA)様
林恵里奈選手
ご協力ありがとうございました。