国内ジュニアでの実績をひっさげてプロへの足がかりを掴んで行く選手が多い中、彼は違い、日本ではほとんど無名に近い存在でした。それもそのはず、ヨーロッパを拠点にテニスを学び、成長を遂げてきた選手だからです。
しかし順風満帆なプロ選手は誰もいないのかもしれませんし、彼もその一人です。
今回は岸僚太選手をピックアップします。
Tennis Tribe.JP (以下、TT):「怪我の状態はどうですか?今日は色々お話を聞かせてください。宜しくお願いします。」
岸僚太選手(以下、岸):「もう大丈夫です!こちらこそ、宜しくお願いします」
TT:「それでは、テニスに初めて接した頃からおしえていただけますか?」
岸:「はい、僕は両親、特に母親がテニスを趣味でやっていて、それに3つ上の姉が始めたのをみて、僕もスクールに入ったのがスタートです。7歳くらいの頃でした。」
TT:「ご両親がテニスの選手というわけではないんですね。岸選手は身長もあって(180 cm )スポーツのサラブレッドというふうにお見受けします。」
岸:「両親は水泳の選手なんです。父はインターハイの優勝経験もあって、両親とも国体の選手です。その身体を受け継いだのかもしれないですね。」
TT:「スポーツはテニス以外にも色々やってきたんですか?」
岸:「そうでもないんです。野球は最初から好きな方じゃなくて。サッカーも体験練習に行ってもなんかピンとこなかったですね。」
TT:「テニスはJITC(自由ガ丘インターナショナルテニスカレッジ)でずっとやってきたのですか?」
岸:「いえ、あざみ野のキッズクラスから初めて、J.STAPで育成のクラス、その後にビッグKを経て中1からJITCに入りました。」
TT:「小学校時代のテニスの戦績はどれくらいでした?」
岸:「小5の時に初めて全国小学生に出て1回戦負け、小6でベスト8でした。その後もあまり日本のジュニアの試合には出ていないんです。」
TT:「そうでしたね、海外にいらっしゃった。海外でテニスをしてきた経緯を教えてもらえますか?」
岸:「ビッグKのトレーナーがニース(フランス)のアカデミーに拠点を移したんですが、中2の時にそこで2−3週間のキャンプを経験したのが始まりでした。」
TT:「ニースとはいいところですねぇ!」
岸:「リゾートの施設のようなところでした。ソフィアアンチポリスというニースから2−30分山の中に入ったところです。中3の時には1年の半分くらいをそのアカデミーで過ごすようになりました。」
TT:「学校は大丈夫だったんですか??」
岸:「中学校って、行かなくても卒業できちゃうんですよ(笑)」
TT:「え?そうなの??」
岸:「高校も通信教育で、年の3分の2はニースのアカデミーで過ごしていました。」
TT:「本当にテニスに没頭する生活をしていたんですね。それで国内のジュニア大会での戦歴がほとんどないんですね。」
岸:「U16の全日本ジュニアには出ましたが、その頃は主にフランス国内大会とITFジュニアを転戦していましたので、日本の大会には出ていないです。」
TT:「地中海となると、レッドクレーという印象ですが。」
岸:「それが、このアカデミーはハードコートでした。その後、高3の後半の頃ですが、ニースのアカデミーが少人数で、練習とトレーニング環境に不足を感じていたので、拠点をスペインのバルセロナに移しました。そこはほとんどのコートがレッドクレーでした。」
生活拠点もテニス中心に全てを賭けてきた岸選手。2014年6月にプロ転向します。プロへの意識はどうだったのでしょう。
TT:「いつ頃からプロテニスの選手になるという夢を抱きました?」
岸:「小3か4年には意識をしていたと思います。いつもテニスをしていたので、それ以外の道を考えたことすらなかったという感じです。20歳になった時に、小5の自分から手紙が届いたんです。忘れていたんですけど、その時の夢を書いていたんですね。そこにも、『プロテニスプレイヤーになる』って書いてました!」
TT:「プロまでの道筋で、多くの選手が一度は挫折しかけたり、違う道を考えることがあるようですが、岸選手はどうでした?」
岸:「本当に、一度も違う道を考えたことも、挫折も味合わずに来ました。『プロ登録』は日本テニス協会への登録になりますが、ヨーロッパではそういうのはなくて、向こうにいる頃からITFプロツアーの大会に出ていたので、すでにプロとして活動していたようなものでした。」
ハードに加えてレッドクレーを経験してきたプレースタイルを聞きました。
TT:「ハードコートからクレーコートに拠点を移していく中で、ご自身のプレースタイルも変わっていきましたか?」
岸:「そうですね、ニースのハードコートでやってた時は、まっすぐなボールで早い展開を好んでました。その後バルセロナに移ってもしばらくこのスタイルだったんですが、それだけでは勝てないんです。クレーではどうしてもディフェンス力を高める必要がありました。そこでベースライン深くでしぶとくプレーすることを覚えていきました。」
TT:「今はどういうスタイルを目指してやってますか?」
岸:「基本的にはベースラインから、フォアハンドクロスのパワー系ボールで押して展開する形ですね。」
TT:「誰か参考にしているトップ選手はいますか?」
岸:「マレー(ATP1位、イギリス)です。しっかりしたストロークから頭を使って展開を作っていくところとか、ディフェンスでの配給はとても参考になります。」
1000位台にいた岸選手は、2016年にランキングを800位台に乗せていきます。戦績についてお伺いしました。
TT:「2016年は4月の柏でQF(ベスト8)と翌週トルコのSF(ベスト4)。どう分析されますか?」
岸:「トルコのベスト4はITFツアーで自己ベストだったのですが、その前の1月のトルコ大会で掴むものがあったんです。」
TT:「予選3試合を勝ち上がって、本戦2回戦に上がった試合ですね。」
岸:「予選で『こうすればいいんだ』というパターンのようなものが掴めて、それを繰り返していったんです。本戦2回戦は200−300位くらいでその大会を優勝した選手にフルセット負けてしまったんですが、自信につながるいい試合ができたと感じていました。その後も、いい感触は2月の京都チャレンジャーくらいまで続いていました。」
TT:「京都から始まって、怒涛の国内フューチャーズ5連戦ですね。」
岸:「1月から出っぱなしだったので、正直途中で疲れちゃって、結果がついて来なくなりました。」
TT:「でもその最後の柏でQF。」
岸:「柏は予決で負けましたが、ラッキールーザーをもらえたんです。連戦の最後に出し切ろうと思って頑張りました。2回戦に志賀(正人)選手にフルセットで勝ったんですが、しつこく拾うプレーにかなり削られました(笑)。その日は連続で次のQFも組まれたんですけど、もうエネルギーが残ってなくて、0-6 0-6でした。志賀選手に、『俺だったらまだできた』って言われちゃいました(笑)」
TT:「そのいい流れのまま、2週おいて出たトルコでベスト4にいったわけですね。」
岸:「はい、その試合も予選からいい流れを作れて、SFは優勝したシード選手でしたが、スコア(0-6 5-7)以上にとても自信に繋がりました。」
TT:「日本の5連戦を除いて、基本的にはダブルスも出るようにしているんですね。」
岸:「そうですね、シングルスに出られなくても試合勘は残しておきたいので出るようにしています。それに、ネットプレーは磨いて引き出しを増やしておきたいので。」
2016年シーズン後半、怪我で戦線離脱を余儀なくされます。
TT:「いい流れでランクも上がって来ているなかで、残念なことに怪我をしてしまったんですね。」
岸:「8月頃から左の手首に痛みを感じ始めていました。でも腱鞘炎だろうと様子を見ながら試合には出てましたが、9月には途中棄権する状況になってしまって。結局、TFCC損傷(三角線維軟骨複合体損傷)という手首の靭帯の損傷という診断で、手術を受けざるを得なくなりました。」
TT:「昇り調子で来ていたので、本当に悔しいですね。」
岸:「全日本選手権にもいい準備ができている中だったので、本当に残念でした。テニス人生の中でここまで大きな怪我はありませんでしたし、手術を受けるのも生まれて始めてだったので、かなり落ち込みました。」
TT:「いろいろ考える時間ができたとも言えますが。」
岸:「いろいろ考えました。テニスをやめることさえ考えもしました。両親にサポートしてもらいながら経済的に自立できていない自分がいて、その上に怪我で手術をする状況になってしまったことに、何というか、無駄なんじゃないかと考えました。」
TT:「それでも、真剣にやめようとは思わなかったのでしょう?」
岸:「いいえ、続けるか止めるか、半々くらいで考えていました。こんな状況になって、学校で勉強もしてこなかった自分を振り返ったりして、このままでいいのかって。」
TT:「そこまで考えたんですね。戻って来てよかったです。何かきっかけがありましたか?」
岸:「周りにこれだけサポートをしてくれる人がいる中で、止めるわけにはいかないって思って、もう一度やろうと思いました。それと、橋本総業さんが男子の実業団チームを作るのでそこに参加しないかというお話をいただいたんです。これまでテニスは個人のスポーツと考えていましたが、チームの一員として戦うということは、社会的にも一員になるような気がして。こういう機会をいただいて、本当に感謝しています。」
TT:「最後に、今後の目標を教えてください。」
岸:「まず日本人として全日本選手権のタイトルは目指したいです。」
TT:「そして・・」
岸:「ATPトップ100、グランドスラム本戦にストレートインできるところには行きたいです。」
TT:「100位に向けて、今年の終わりにはどうありたいですか?」
岸:「プロテクトランクがあるので、これをうまく使ってまずは昨年の最高ランキング(860位)まで戻して、来年に繋ぎたいです。」
TT:「あ、一つ忘れてました。」
岸:「はい。」
TT:「フランス語かスペイン語はペラペラ?」
岸:「それが、英語で過ごせる環境だったんですよ。」
TT:「試合で『カモン!』じゃなくて、『アレッ!』とか『バモス!』って言って欲しかったんですが、だめですかね。」
岸:「すみません・・(笑)」
インタビューの終わりに、サインと一言を書いていただきました。
「え〜何書こう?!」と迷うこと5分。
ペンをとって、漢字を間違えないようにスマホで確認して、「やばい字ぃ汚いんすよ!」と言いながら丁寧に書いてももらいました。
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